王立誠棋聖と挑戦者・山下敬吾七段の第五局は二十六日午前九時、富山県高岡市の雨晴温泉・磯はなびで始まった。ここまで王の一勝三敗。山下が一気に囲碁界の頂点に立つか、それとも王が巻き返すかという注目の一局だ。
この日朝、富山湾を一望する八階の対局室に、山下、王の順に入室。定刻、立ち会いの岩田達明九段の合図で黒番の王が右上星に一手目を打った。
黒5まで王が勝った第三局と同じ進行。黒7の三々入りから15まで左下で定石形ができ、王の実利、山下の厚みという、両者の棋風通りの分かれとなった。白20の開きに、王が黒21と打ち込んだ。
右下での折衝の後、王は黒33と下辺で模様を広げた。
午後の戦いに入り、右上で白が三子を捨て石にして隅を荒らしたのに対し、黒は右辺から上辺に勢力圏を広げた。
この後、山下が白56と下辺に打ち込み、さばき形にし、王も黒65と左辺に打ち込んで、互いに模様を荒らす展開になった。左上で黒がどう収まるかが焦点となったところで黒69を見て山下が打ち掛けた。
2日目は二十七日午前九時、再開された。
お互いの模様に打ち込み、地合勝負の様相となってきた本局。定刻、立会人の岩田達明九段が開いた封じ手は左上隅から一間に飛ぶ白70。上辺の荒らしと左隅の黒への攻めを含んだ一手。これに対し王は黒71と上辺を押さえたうえ、黒73のハネから隅でコウに仕掛けた。右上隅白の生死を材料に、王はコウは黒が有利と主張している。
結局、黒は白88に手を抜いてコウを打ち抜いた。当然、白は右下黒に攻め掛かる。黒は中央に逃げ出すが、これで右辺から上辺にかけての黒模様はかなり制約されることになる。
山下は白110と左下をかけ継ぎ、王が当て返したことから再びコウが発生した。局面は再び長期戦模様となっている。
この後、王は黒151と上辺の黒模様を広げると、山下は白152とすかさず模様に臨んだ。
この白の生死をめぐり難解な戦いに突入。結局白は黒二子を飲み込んで生きを確かめ、この時点で控室では「細かい。寄せ勝負」の声。
王は175手目から、山下は198手目から秒読みとなる中、微細な寄せ合いが続いた。手数が伸び、アゲハマを交換しあって打ち継いだ。
勝負が決着したのは午後八時十一分。白一目半勝ちを確かめた両対局者は放心したように盤面を見つめた。棋聖交代の瞬間だった。
「これからもっと強くなりたい。棋聖にふさわしい碁を打ちたい」。山下七段は言った。三大タイトル獲得では石田芳夫九段の本因坊位(二十二歳)、林海峰名誉天元の名人位(二十三歳)、趙治勲二十五世本因坊の名人位(二十四歳)に継ぐ若さ。
山下七段は第五局を振り返り、「序盤は自分らしくない碁だった。最後の寄せで得ををし、勝ちになったかと思った。王棋聖は本当に強かった。世界戦でも頑張りたい」と語った。
四連覇ならなかった王棋聖。「コウ争いで一時は良くなったかと思ったが、最後で失敗した。山下さんは強かった。来年、また頑張りたい」と話した。
今七番勝負。立ち上がり山下が二連勝し、シリーズの主導権を握った。初めての七番勝負とは思えない落ち着いた打ち回し。碁盤全体をとらえた戦の太い構想力が際だっていた。
王は第三局でしのぎに強い持ち味を発揮して完勝したものの、昨年後半からの不調を引きずっているような負け方が目立った。
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