石田二十四世本因坊が展望
囲碁界の最高峰、第35期棋聖戦七番勝負(読売新聞社主催)は13日、福島県会津若松市で開幕する。張栩棋聖(30)に挑戦するのは井山裕太名人(21)。棋聖と名人が棋聖戦の舞台でぶつかるのは4回目で、文字通り囲碁界ナンバーワンを決める戦いとなる。注目の対戦を石田芳夫二十四世本因坊(62)に展望してもらった。 |
棋聖と名人 真っ向勝負
棋聖対名人。これよりすごい組み合わせはない。開幕が待ち遠しいですね。
二人は名人戦七番勝負を2度戦い1勝1敗。最初、張さんは少し余裕をもって臨んだでしょう。しかし井山さんが思いのほか強いのでびっくりしたのではないか。2度目は堂々とやられてしまった。
今回の棋聖戦は決着をつける戦いとなる。プレッシャーは張さんの方が大きいだろう。守る立場だし、年齢が9歳違う。一世代若い相手はやりにくいとしたもの。井山さんは負けても失うものがない。伸び伸びやれる気楽さがある。
井山さんはリーグを順調に勝ち抜いたわけではない。最終戦の山城戦は最後にもたついて危なかった。なんとか勝ちを拾った。挑戦者決定戦の高尾戦は負け碁を逆転したものだった。最近の井山さんには、苦しくても勝ちにつなげるしぶとさ、相手に決め手を与えないうまさが出てきた。
今年の成績は二人ともほぼ2勝1敗ペース。張さんは棋聖を獲得した後、碁聖は失ったが、十段、王座を防衛。立派な成績だ。井山さんは国内ではよく勝ったが、国際戦は振るわなかった。本人も不本意だと思う。
ここのところ共に変身の気配がある。張さんは本来は足早な棋風だが、位の高い碁も志向するようになった。井山さんも安定感をかなぐり捨て、大技を繰り出している。いろいろやってみようということだろう。さらに一段強くなるには、こうした試行錯誤が大切だ。
|
対戦成績は五分
対戦成績は五分と言える。昨年の名人戦以降、張さんは井山さんに6連敗していたが、最近は2連勝。これは大きい。連敗のまま七番勝負を迎えたくはない。張さんの最大のライバルは四天王ではなく、井山さんになっているのかもしれない。
以前の二人は、最初は間合いを計って終盤勝負のイメージだったが、最近はどっちのパンチが強いかを見せたがっている感じがある。お互いに妥協を嫌うから、中盤が激しくなる。
今回の七番勝負も、真っ向力勝負になるだろう。両者、工夫の布石から早めに戦いに入る。いままでにない碁ができるはず。形勢判断で勝負という図式にはならない。見ている方は手のひらの汗が乾く間もない面白い勝負になる。もちろん細かい寄せ合いもあるだろうが、山あり谷ありの戦いの末のことだ。
この戦いは、今後の囲碁界の地図をつくるものになるはずだ。
張さんに底力で防衛してほしいような、井山さんに若い力で時代を切り開いてほしいような――。相当の確率で最終第7局まで行くだろう。どっちが勝っても4勝3敗。最後の1勝を決めるのは運と言うしかない。運を呼び込むのも実力のうちだから。
|
この1年、棋聖であったことを光栄に思っている。心を熱くし、すべてをかけた戦いの結果として、最高のタイトルを獲得できたことで精神的にずいぶん楽になった。負けることを前ほど恐れなくなった。心に余裕ができたのだと思う。
井山名人は一番強い挑戦者。発想が豊かで、弱点がない。年齢以上の落ち着きを備えている。最も打ちたい相手であるし、最も打ちたくない相手だ。
名人防衛戦では一方的にやられ、その後も連敗してしまったが、ここのところは2連勝で流れは変わってきている。自分も進化している。平常心で臨むことが大切だと思っている。
七番勝負は自分を成長させてくれる。早碁とは一手の重みが違う。万全の状態で臨み、悔いのない戦いをしたい。自分の力を出し切れば、最高に面白い七番勝負をお見せできると思っている。
|
| ◇ちょう・う 1980年、台湾・台北市出身。10歳で来日。94年入段。2003年、本因坊獲得、2連覇。04年、名人獲得、通算4期。09年、十段を奪取し、すでに保持していた名人、天元、王座、碁聖とあわせて、史上初の五冠に。10年、棋聖獲得により、趙治勲二十五世本因坊に続き、史上2人目の七大タイトル制覇を達成する。現在は十段、王座も保持。夫人は小林泉美六段。
|
|
棋聖は囲碁を始めたころからのあこがれ。最初に入ったリーグでもあり、縁を感じる。挑戦者となって身の引き締まる思いだ。最高の舞台で七番勝負が打てる喜びを感じている。
七番勝負は自分に向いていると思う。普段は割り切ってしまうところも、じっくり読める。
張棋聖の碁は、読みも形勢判断もスピード感がある。そして正確だ。日本で一番強い棋士。最近は位の高い碁も打っており、さらにパワーアップした感じだ。自信があるから打てるのだろう。
自分の碁の特徴は反発精神。相手の言いなりにはなりたくない。張棋聖もそう。お互いに反発し合い、ちょっとしたところから戦いになる。名人戦では迷った時は厳しい手を選んだが、今回もそうする。競り合いが最後まで続く気の抜けない戦いになると思う。自分らしい碁を打つに尽きる。
|
| ◇ いやま・ゆうた 1989年、大阪府東大阪市出身。5歳の時、テレビゲームで碁を覚え、97年、小学2年で小学生名人、翌年連覇。02年入段。05年、全日本早碁オープン戦優勝。16歳4か月で、史上最年少での棋戦優勝だった。07年、17歳10か月で棋聖リーグ入り。これも史上最年少のリーグ入り記録。08年、張栩名人に挑戦するが敗退。翌年、名人奪取、連覇。
|
|
| ● 棋聖戦 過去の勝敗 ● |
| (1) |
藤沢秀行 天元 |
(4勝1敗) |
橋本宇太郎 九段 |
| (2) |
藤沢秀行 棋聖 |
(4勝3敗) |
加藤正夫 本因坊 |
| (3) |
藤沢秀行 棋聖 |
(4勝1敗) |
石田芳夫 王座 |
| (4) |
藤沢秀行 棋聖 |
(4勝1敗) |
林 海峰 九段 |
| (5) |
藤沢秀行 棋聖 |
(4勝0敗) |
大竹英雄 十段 |
| (6) |
藤沢秀行 棋聖 |
(4勝3敗) |
林 海峰 九段 |
| (7) |
趙 治勲 名人 |
(4勝3敗) |
藤沢秀行 棋聖 |
| (8) |
趙 治勲 棋聖 |
(4勝2敗) |
林 海峰 九段 |
| (9) |
趙 治勲 棋聖 |
(4勝3敗) |
武宮正樹 九段 |
| (10) |
小林光一 名人 |
(4勝2敗) |
趙 治勲 棋聖 |
| (11) |
小林光一 棋聖 |
(4勝1敗) |
武宮正樹 本因坊 |
| (12) |
小林光一 棋聖 |
(4勝1敗) |
加藤正夫 名人 |
| (13) |
小林光一 棋聖 |
(4勝1敗) |
武宮正樹 本因坊 |
| (14) |
小林光一 棋聖 |
(4勝1敗) |
大竹英雄 九段 |
| (15) |
小林光一 棋聖 |
(4勝3敗) |
加藤正夫 九段 |
| (16) |
小林光一 棋聖 |
(4勝3敗) |
山城 宏 九段 |
| (17) |
小林光一 棋聖 |
(4勝3敗) |
加藤正夫 九段 |
| (18) |
趙 治勲 本因坊 |
(4勝2敗) |
小林光一 棋聖 |
| (19) |
小林 覚 九段 |
(4勝2敗) |
趙 治勲 棋聖 |
| (20) |
趙 治勲 本因坊 |
(4勝3敗) |
小林 覚 棋聖 |
| (21) |
趙 治勲 棋聖 |
(4勝1敗) |
小林 覚 九段 |
| (22) |
趙 治勲 棋聖 |
(4勝2敗) |
依田紀基 碁聖 |
| (23) |
趙 治勲 棋聖 |
(4勝2敗) |
小林光一 天元 |
| (24) |
王 立誠 王座 |
(4勝2敗) |
趙 治勲 棋聖 |
| (25) |
王 立誠 棋聖 |
(4勝2敗) |
趙 善津 九段 |
| (26) |
王 立誠 棋聖 |
(4勝2敗) |
柳 時熏 七段 |
| (27) |
山下敬吾 七段 |
(4勝1敗) |
王 立誠 棋聖 |
| (28) |
羽根直樹 天元 |
(4勝3敗) |
山下敬吾 棋聖 |
| (29) |
羽根直樹 棋聖 |
(4勝3敗) |
結城 聡 九段 |
| (30) |
山下敬吾 九段 |
(4勝0敗) |
羽根直樹 棋聖 |
| (31) |
山下敬吾 棋聖 |
(4勝0敗) |
小林 覚 九段 |
| (32) |
山下敬吾 棋聖 |
(4勝3敗) |
趙 治勲 十段 |
| (33) |
山下敬吾 棋聖 |
(4勝2敗) |
依田紀基 九段 |
| (34) |
張 栩 十段 |
(4勝1敗) |
山下敬吾 棋聖 |
| (35) |
? |
|
|
|
|
|
|
|
|
| ● 第35期棋聖戦 七番勝負 日程 ● |
| 張 栩 棋聖 対 井山裕太 名人 |
| 対局日 |
対局場 |
| 第1局 |
1月13日(木) 14日(金) |
福島県会津若松市 「今昔亭」 |
| 第2局 |
1月26日(水) 27日(木) |
北海道伊達市 「第ニ名水亭」 |
| 第3局 |
2月2日(水) 3日(木) |
富山県氷見市 「氷見グランドホテルマイアミ」 |
| 第4局 |
2月17日(木)
18日(金) |
兵庫県宝塚市 「宝塚ホテル」 |
| 第5局 |
2月24日(木)
25日(金) |
新潟県南魚沼市 「龍言」 |
| 第6局 |
3月10日(木)
11日(金) |
山梨県甲府市 「常磐ホテル」 |
| 第7局 |
3月16日(水)
17日(木) |
静岡県伊豆市 「玉樟園新井」 |
| ・全互先 先番6目半コミ出し ・持時間 各8時間 |
|
|
|
|
|
|
| ● 2人の最近の対戦成績 ● |
| (通算は張棋聖の14勝11敗) |
| |
棋戦 |
勝ち |
負け |
| 08年 |
名人戦七番勝負 |
井山八段 |
張名人 |
| 同 |
井山八段 |
張名人 |
| 同 |
張名人 |
井山八段 |
| 同 |
張名人 |
井山八段 |
| 同 |
張名人 |
井山八段 |
| 同 |
井山八段 |
張名人 |
| 同 |
張名人 |
井山八段 |
| 09年 |
棋聖リーグ |
張名人 |
井山八段 |
| 竜聖戦 |
井山八段 |
張名人 |
| 名人戦七番勝負 |
張名人 |
井山八段 |
| 同 |
井山八段 |
張名人 |
| 同 |
井山八段 |
張名人 |
| 同 |
井山八段 |
張名人 |
| 同 |
井山八段 |
張名人 |
| 本因坊リーグ |
井山名人 |
張十段 |
| 10年 |
NHK杯 |
井山名人 |
張十段 |
| 天元戦 |
張棋聖 |
井山名人 |
| 本因坊リーグ |
張棋聖 |
井山名人 |
| (肩書は対局当時) |
|
|
|
|
|
|
| ● リーグ戦結果 ● |
| Aリーグ |
| 順位 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
5 |
| |
山 下 敬 吾
本 因 坊 |
依 田 紀 基
九 段 |
河 野
臨
九 段 |
高 尾 紳 路
九 段 |
王 銘 エ ン
九 段 |
加 藤 充 志
八 段 |
| 山下 |
- |
● |
● |
○ |
● |
● |
| 依田 |
○ |
- |
● |
○ |
● |
○ |
| 河野 |
○ |
○ |
- |
○ |
● |
○ |
| 高尾 |
● |
● |
● |
- |
● |
● |
| 王 |
○ |
○ |
○ |
○ |
- |
● |
| 加藤 |
○ |
● |
● |
○ |
○ |
- |
| 成績 |
2 位 |
3 位 |
陥 落 |
1 位 |
陥 落 |
4 位 |
|
|
|
|
|
|
| Bリーグ |
| 順位 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
5 |
| |
王
立 誠
九 段 |
秋 山 次 郎
八 段 |
羽 根 直 樹
九 段 |
井 山 裕 太
名 人 |
山 城
宏
九 段 |
柳
時 熏
九 段 |
| 王 |
- |
○ |
● |
○ |
○ |
○ |
| 秋山 |
● |
- |
○ |
○ |
○ |
○ |
| 羽根 |
○ |
● |
- |
● |
○ |
● |
| 井山 |
● |
● |
○ |
- |
● |
● |
| 山城 |
● |
● |
● |
○ |
- |
● |
| 柳 |
● |
● |
○ |
○ |
○ |
- |
| 成績 |
陥 落 |
陥 落 |
3 位 |
1 位 |
2 位 |
4 位 |
|
|
|
|
|
|
|